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2008年10月14日 (火)

所得税法1 総説

所得課税:所得税法

何から始めるべきか悩みましたが、所得税法が身近でとっつきやすいだろう、との独断により、所得税から掲載させて頂くことにしました。

第1 総説 (金子宏「租税法」13版p159以下参照)

1.所得税の意義

 所得税とは、個人の所得に対する租税のことである。

2.所得の意義

(1)効用や満足(真の意味における所得)をいかなる構成により金銭的価値で表現するべきか。

①消費型所得概念収入のうち、効用・満足の源泉である財貨や役務の購入に充てられた部分が所得である。

②取得型所得概念:収入等の形で取得する経済的利得が所得である。

②-1 制限的所得概念:経済的利得のうち、利子・配当・地代・給与等、反復的継続的に生じるものに制限。

②-2包括的所得概念:キャピタル・ゲインのような一時的・偶発的利得を含め、すべての利得を含める。

(2)わが国の所得税法

譲渡所得や一時所得等の一時的・偶発的利得をも課税対象とし、さらに利子所得ないし一時所得に含まれない所得をすべて雑所得として課税の対象とする旨を定めていることから、包括的所得概念を採用するものと解されている。したがって、合法な利得のみでなく、不法な利得であっても課税の対象となる。

(3)利息制限法の超過利息

【論点】利息制限法所定の制限を超過した利息・損害金(制限超過利息)に対する課税の可否

利息制限法を超過する約定は同法により無効であり(同1条1項、4条1項)、債務者が任意に支払った場合でも、民法491条にしたがって制限超過部分は元本に充当され、元本完済後に支払われた場合にも不当利得の返還請求が認められる(民法判例)。それでは、制限超過利息は所得を構成するのであろうか。

→ 私法上無効な利得であっても、経済的にみて利得者が現実にそれを支配し、自己のために享受している限り課税所得を構成する。

∵ その根拠としては、①担税力の増加を重視する包括的所得概念の立場からは、所得概念を広く、かつ経済的に把握することが自然であること、②所得税法上、所得の計算の基礎となった事実に無効な行為が含まれても当然に所得性が否定されるものではなく、「経済的成果」が失われたとき初めて更正の対象とされていること(所152条、令274条)があげられる。

【メモ】

上記は所得概念の広狭に関する問題といえる。これについては包括的所得概念により所得該当性を肯定するとしても、未収入の制限超過利息でも履行期が到来した以上課税してよいとするか、あるいは既収部分に限るのかはさらに別の問題(所得の実現時期の問題)として捉えることができる。所得の実現時期の判定基準としては、権利確定主義を原則としつつ、補足的に管理支配基準(納税者が利得の管理支配を獲得した時点で所得が実現すると考える。その具体的判断にあっては、収入の蓋然性の有無が重要である。)を採用する立場が有力である(後に整理する)。同説によると、未収入の制限超過利息でも、収入実現の蓋然性があると言えるなら課税可能であるが、蓋然性があると言えないなら課税は不可能であり、現実の収入を待って課税すべきこととなる。

【判例】利息制限法利息事件―最判s46.11.9(百選28

争点: 「収入すべき金額」(所36条1項)は制限を超過した未収利息を含むかが争われた。

判旨: 超過利息は現実に収入された場合は所得を構成するが、未収の場合は構成しない。

超過部分は元本に充当されるという民法判例によれば、超過利息は利息の性質を失い、所得ではないとも思える。しかし当事者においてなお利息として取り扱っている以上、これを所得として構成することができる。ただし、未収の部分については、適法な未収利息と異なり、実現の蓋然性があるとはいえないので所得を構成しない。

メモ: 所得概念について経済的に把握する立場を採用し、所得の実現時期について管理支配基準を採用し、かつ未収の制限超過利息の実現の蓋然性があるとはいえないと考えれば、上記判旨と同じ結論が導かれる。もっとも、上記判旨は管理支配基準を採用する旨を明示していない。

(4)包括的所得概念からの例外

人の担税力を増加させる利得であっても、未実現の利得、帰属所得および原資の維持に必要なものは課税対象から除外される。

 ア.未実現利得、帰属所得(自己財産の利用や自家労働より生じる利益)

   これらは、所得といえる以上、理論上は課税可能である。しかし、その捕捉・評価が困難なため、政策的に課税対象から除外されている。

【判例】株式会社籐松事件―最判s57.12.21(百選31

争点: 利益積立金の資本組入れを配当とみなして、源泉徴収を規定していた旧所25条2項2号は、配当所得となりえないものを配当所得とみなすもので違憲(憲29条)かが争われた。

判旨: 保有株式の価値の増加益に担税力が認められるから合憲であるとした以下のような原審判断を是認。
 すなわち、立法裁量論により、「担税力」を欠くことが明らかなものを課税物件とする場合に限り違憲となる。本法は、保有株式の価値の増加益に担税力を認め、これが資本組入れという形でいわば顕在化した時期を捉えて課税するものであり、担税力なき課税とはいえない。未実現利益に課税するか否かは立法政策の問題である(所59条、40条、法22条2項等)。

考察: 上記の原審の採用する理論構成(未実現のキャピタル・ゲインに対する課税)に対しては、それがなぜ譲渡所得ではなく配当所得として課税されるのかといった疑問や、資本組入れ直前に株式を購入した株主は、留保利益含みの高値で購入しており、キャピタル・ゲインがあるとはいえないのではないか(譲渡益について課税されている)、といった疑問が呈されている。

イ.納税者が取得した経済的価値のうち、原資の維持に必要な部分

  これは、上記の未実現利得等と異なり、そもそも所得に該当しないため課税対象にならない。このような理解は、資本主義的拡大再生産を維持する必要性からも根拠付けられる。制度上は、例えば必要経費控除や取得原価控除。

【判例】マンション建設承諾料事件―大阪地判s54..31

争点: 心身、資産の損失に基因して取得する損害賠償金等は所得税が課されない(所9条1項16号)。それでは、当事者間で、「損害賠償のため」との合意により支払われた金銭は、すべて非課税となるのであろうか。非課税となる損害賠償の範囲が争われた。

判旨: 現実に損害が生じ、または生じることが確実に見込まれ、かつその填補のために支払われるものに限られる。
 非課税の根拠は、損害を填補する性格のものは納税者に利益をもたらさないからである。よって当事者間で損害賠償のためと明確に合意された場合でも、非課税とされるのは客観的に発生し、または発生が見込まれる損害の限度に限られる。

メモ:損害賠償金は原則として一時所得として課税される(所34)。

3.所得税の類型

  所得税法は、所得をその源泉ないしは性質に応じて10種類に分類したうえで、原則として各種所得の金額を合算し、それに一本の税率表を適用する、総合所得税を基本としている。そのうえで、特定の種類の所得を合算せず、分離して課税する分離課税を併用している。後者は、特定種類の所得に対して累進税率の適用を緩和する趣旨である。

  なお、税制改革論議のなかで①利子・配当・キャピタルゲインといった金融所得、不動産所得、譲渡所得等と、②勤労性の所得等に区分し、前者には低税率の比例的な税率で課税し、後者には累進的な税率で課税する「二元的所得税制」論が浮上している(池本征男「所得税法」4訂版p16参照)。

4.課税単位

(1)課税単位とは、所得税の税額を算定する人的単位をいう。

  わが国は、戦前は家族単位主義を用いたが、戦後は個人単位主義へと移行した。ただし、家族構成員の間に所得を分割することを防止するため、事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例(所56条)を設け、また、妻の内助の功を評価するため配偶者特別控除の制度(所83条の2)等を採用している。

(2)夫婦別財産制と所得の帰属

  夫婦は、婚姻届出前に、婚姻中の夫婦財産関係に関する契約(夫婦財産契約)を締結できる(民755条)。そして民法は、当該契約が締結されない場合の補充的な制度として夫婦別産制を採用する。すなわち、夫婦の一方が婚姻前から所有する財産と、婚姻中に自己の名で得た財産は、その者の特有財産になる(民762条1項)。
 個人単位主義に基づく、夫婦の所得の計算は、上記民法上の夫婦別産主義に依拠しているものと解されているが(最判s36.9.6、百選25)、具体的な所得の帰属をどのように判断すべきかは必ずしも明確ではない。

【判例】夫婦財産契約と所得の帰属―東京地判s.63..16

争点: 夫が婚姻中に得る財産に得る財産を夫婦の共有とする内容の夫婦財産契約が締結された場合、夫が得た収入の半分は妻の所得となるのか。

判旨: ある収入の所得税法上の所得の帰属は、権利の発生時において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかによって決定されるべきであるから、夫が得た収入は夫の所得である。夫婦財産契約は、夫が一旦取得した財産を夫婦間において共有とするものに過ぎない。

考察: 上告審(最判h..12.3)も上記判断を支持している。

内容的には、今回は、訴訟実務で多用される論点は含まれていませんが、所得課税全般の理解の基礎となる部分です。ただ、最後の夫婦財産契約の問題は帰属の問題を含んでおり、所得の帰属が争われる訴訟は多くあります。

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コメント

所得税法は幅が広い。ある面では法人税よりも難解かもしれない。しかし、多くの人がかかわる税であり、知って得する。
島村先生の熱意が伝わります。判例が理解しやすいと思います。若手経営者の勉強会にもぜひ活用させてください。

〉masajiさん コメントを頂きありがとうございます。拙稿が皆さんのお役に立てば幸いです(内容に不正確な点がある場合はご容赦下さい。)。

投稿: masaji | 2008年10月15日 (水) 19時51分

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