2008年11月10日 (月)

所得税法2 基本的仕組み

前回から大分サボってしまいました(小百合さんに怒られそうです)。今回は、所得税法の基本的な仕組みに関するノートです。なお、今回から各項目にガイドを設けることにしました。

1.納税義務者

【ガイド】納税義務者概念は所得税課税の基礎的要件です。ただ、これは国際租税の問題であり、応用的論点に位置付けるべきものだと思われますので、詳細は国際租税の項で論じます。「住所」概念は解釈の余地が大きいことから、個人が居住者か非居住者か争われる例は多くあります。他方で、法人の場合には「本店所在地=設立登記した地」とする運用が定着しており(学説上は異論もあるようですが)、内国法人と外国法人の区別が争われる例は殆どありません。

納税義務者

課税所得の範囲

個人

居住者

非永住者以外の居住者

すべての所得(所7条1項1号)

非永住者

国内源泉所得+国内において支払われ、又は国外から送金されたもの(2号)

非居住者

国内源泉所得(3号)

法人

内国法人

国内において支払われる利子等、配当等、給付補填金、利息・・(4号)

外国法人

国内源泉所得のち一定のもの(5号)

(1)居住者 :国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する者(所2条1項3号)。

(2)非永住者:居住者のうち、国内に永住する意思がなく、かつ、現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所または居所を有する個人(4号)。

(3)非居住者:居住者以外の個人(5号)。

(4)内国法人:国内に本店又は主たる事務所を有する法人(6号)。

(5)外国法人:内国法人以外の法人(7号)。

2.課税標準と税額算出の仕組

【ガイド】ある所得につき、その所得区分が争われる例は多いです(詳細は各種所得の項で述べる)。必要経費の控除ができるのか、損益通算の対象かといった点がポイントでしょうか。損益通算に関しては、雑所得から生じる損金の損益通算が制限されている点が重要です(そのために、課税庁による「租税回避封じ」の手段として利用されているように思われます)。総合課税制度が崩れつつあるとの指摘があることは前回述べたとおりです。また、平成19年の税制調査会中期答申によると、所得区分の見直しが言及されています。

(1)各種所得の金額の計算

①利子所得の金額 : 収入金額

②配当所得の金額 : 収入金額 - 負債利子

③不動産所得の金額:総収入金額 - 必要経費

④事業所得の金額 :総収入金額 - 必要経費

⑤給与所得の金額 : 収入金額 - 給与所得控除額

⑥退職所得の金額 :( 収入金額 - 退職所得控除額 )× 1/

⑦山林所得の金額 :総収入金額 - 必要経費 - 特別控除(最高50万円)

⑧譲渡所得の金額 

  短期譲渡所得 :総収入金額 -(取得費 + 譲渡費用) 

  長期譲渡所得 :総収入金額 -(取得費 + 譲渡費用)   

- 特別控除(最高50万円)※短期から先に控除する。

⑨一時所得の金額 :総収入金額 - 支出した金額 - 特別控除額(最高50万円)

⑩雑所得の金額  :総収入金額 - 必要経費

(2)課税標準の計算

 ア.損益通算

課税標準の計算にあたり、③不動産所得の金額、④事業所得の金額、⑦山林所得の金額、⑧譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を、他の各種所得の金額から控除することをいう(所69条1項)。保有資産から生じる損失が、個人の担税力を減少させることから、担税力を総合的に捉えるための措置である。ただし、生活に通常必要でない資産に係る所得の金額の計算上生じた損失は、原則として損益通算ができない(同2項)。

 イ.純損失・雑損失の繰越控除

過去3年間に生じた純損失の金額または雑損失の金額があるときは、その金額を課税標準の計算上控除する(所70条、71条)。

 ウ.所得税の課税標準(所22条1項)
所得税の課税標準は以下の三つに区分される。


  ①総所得金額 

   損益通算及び、純損失・雑損失控除適用後の各種所得の金額のうち、退職所得、山林所得以外を合算した金額をいう(同2項)。

但し、長期譲渡所得(保有期間が5年を超える資産の譲渡による所得)は、その2分の1のみを合算する。長期に渡り累積された所得なので、累進税率の適用を緩和する趣旨である。
 また、一時所得も、その2分の1のみを合算する。一時的・偶発的な利得は、担税力が低いと考えられるからである(同2項2号)。

  ②山林所得金額

   損益通算及び、純損失・雑損失控除適用後の山林所得の金額である(同3項)。
投下資本の回収に長期を要するため、累進税率の適用を緩和する趣旨で分離課税とされている。

  ③退職所得金額

   損益通算及び、純損失・雑損失控除適用後の退職所得の金額である(同3項)。

給与の一部の後払いであり、老後の生活の糧でもあるから、累進税率の適用を緩和する趣旨で分離課税とされている。

(3)課税所得金額の計算(89条2項)

総所得金額        = 課税総所得金額

山林所得金額 -所得控除 = 課税山林所得金額

退職所得金額       = 課税退職所得金額

総所得金額・退職所得金額及び山林所得金額から、所得控除(72条以下)の合計額を控除した残額が、最終的な課税標準である課税総所得金額・課税退職所得金額・課税山林所得金額となる。所得控除は、総所得金額・山林所得金額・退職所得金額の順で行う(87条2項)。

(4)納付税額の計算(89条1項)

課税総所得金額  × 累進税率 = 算出税額

課税山林所得金額 × 累進税率 = 算出税額

課税退職所得金額 × 累進税率 = 算出税額    合計 - 税額控除 = 納付税額

  課税総所得金額・課税山林所得金額・課税退職所得金額から、所定の税額控除の合計額を控除した残額が、最終的な所得税額となる。


3.所得控除と税額控除(植松守雄編『注釈所得税法』(4訂版)219頁参照)

 所得控除、税額控除には様々なものがあるが、その趣旨により以下のように大別できる。

(1)課税最低限の設定

本人及びその家族の最低限度の生活を維持するのに必要な部分は担税力を有しないとの考えから認められる控除である。

基礎控除(86条)がその代表とされ、他に配偶者控除(83条)、配偶者特別控除(83条の2)、扶養控除(84条)等がある。

(2)納税者の個別的事情(担税力)に応じた課税の実現

  配偶者の有無や障害者、老年者であるといった、納税者の個別の事情により担税力に差異が生じる。そこで納税者の個別的な担税力に応じた課税を実現するための控除が設けられている。

配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除はこの趣旨も妥当する。他に障害者控除(79条)、老年者控除(80条)、寡婦控除(81条)、勤労学生控除(82条)、雑損控除(72条)、医療費控除(73条)等がある。

(3)二重課税の調整

  配当に対する法人税と所得税の二重課税を調整する配当控除(92条)、国際間の二重課税を排除するための外国税額控除(95条)がこれにあたる。

(4)一定の政策目的の助成

  生命保険料控除(76条)、損害保険料控除(77条)、社会保険料控除(74条)、寄付金控除(78条)等がこれにあたる。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年10月14日 (火)

所得税法1 総説

所得課税:所得税法

何から始めるべきか悩みましたが、所得税法が身近でとっつきやすいだろう、との独断により、所得税から掲載させて頂くことにしました。

第1 総説 (金子宏「租税法」13版p159以下参照)

1.所得税の意義

 所得税とは、個人の所得に対する租税のことである。

2.所得の意義

(1)効用や満足(真の意味における所得)をいかなる構成により金銭的価値で表現するべきか。

①消費型所得概念収入のうち、効用・満足の源泉である財貨や役務の購入に充てられた部分が所得である。

②取得型所得概念:収入等の形で取得する経済的利得が所得である。

②-1 制限的所得概念:経済的利得のうち、利子・配当・地代・給与等、反復的継続的に生じるものに制限。

②-2包括的所得概念:キャピタル・ゲインのような一時的・偶発的利得を含め、すべての利得を含める。

(2)わが国の所得税法

譲渡所得や一時所得等の一時的・偶発的利得をも課税対象とし、さらに利子所得ないし一時所得に含まれない所得をすべて雑所得として課税の対象とする旨を定めていることから、包括的所得概念を採用するものと解されている。したがって、合法な利得のみでなく、不法な利得であっても課税の対象となる。

(3)利息制限法の超過利息

【論点】利息制限法所定の制限を超過した利息・損害金(制限超過利息)に対する課税の可否

利息制限法を超過する約定は同法により無効であり(同1条1項、4条1項)、債務者が任意に支払った場合でも、民法491条にしたがって制限超過部分は元本に充当され、元本完済後に支払われた場合にも不当利得の返還請求が認められる(民法判例)。それでは、制限超過利息は所得を構成するのであろうか。

→ 私法上無効な利得であっても、経済的にみて利得者が現実にそれを支配し、自己のために享受している限り課税所得を構成する。

∵ その根拠としては、①担税力の増加を重視する包括的所得概念の立場からは、所得概念を広く、かつ経済的に把握することが自然であること、②所得税法上、所得の計算の基礎となった事実に無効な行為が含まれても当然に所得性が否定されるものではなく、「経済的成果」が失われたとき初めて更正の対象とされていること(所152条、令274条)があげられる。

【メモ】

上記は所得概念の広狭に関する問題といえる。これについては包括的所得概念により所得該当性を肯定するとしても、未収入の制限超過利息でも履行期が到来した以上課税してよいとするか、あるいは既収部分に限るのかはさらに別の問題(所得の実現時期の問題)として捉えることができる。所得の実現時期の判定基準としては、権利確定主義を原則としつつ、補足的に管理支配基準(納税者が利得の管理支配を獲得した時点で所得が実現すると考える。その具体的判断にあっては、収入の蓋然性の有無が重要である。)を採用する立場が有力である(後に整理する)。同説によると、未収入の制限超過利息でも、収入実現の蓋然性があると言えるなら課税可能であるが、蓋然性があると言えないなら課税は不可能であり、現実の収入を待って課税すべきこととなる。

【判例】利息制限法利息事件―最判s46.11.9(百選28

争点: 「収入すべき金額」(所36条1項)は制限を超過した未収利息を含むかが争われた。

判旨: 超過利息は現実に収入された場合は所得を構成するが、未収の場合は構成しない。

超過部分は元本に充当されるという民法判例によれば、超過利息は利息の性質を失い、所得ではないとも思える。しかし当事者においてなお利息として取り扱っている以上、これを所得として構成することができる。ただし、未収の部分については、適法な未収利息と異なり、実現の蓋然性があるとはいえないので所得を構成しない。

メモ: 所得概念について経済的に把握する立場を採用し、所得の実現時期について管理支配基準を採用し、かつ未収の制限超過利息の実現の蓋然性があるとはいえないと考えれば、上記判旨と同じ結論が導かれる。もっとも、上記判旨は管理支配基準を採用する旨を明示していない。

(4)包括的所得概念からの例外

人の担税力を増加させる利得であっても、未実現の利得、帰属所得および原資の維持に必要なものは課税対象から除外される。

 ア.未実現利得、帰属所得(自己財産の利用や自家労働より生じる利益)

   これらは、所得といえる以上、理論上は課税可能である。しかし、その捕捉・評価が困難なため、政策的に課税対象から除外されている。

【判例】株式会社籐松事件―最判s57.12.21(百選31

争点: 利益積立金の資本組入れを配当とみなして、源泉徴収を規定していた旧所25条2項2号は、配当所得となりえないものを配当所得とみなすもので違憲(憲29条)かが争われた。

判旨: 保有株式の価値の増加益に担税力が認められるから合憲であるとした以下のような原審判断を是認。
 すなわち、立法裁量論により、「担税力」を欠くことが明らかなものを課税物件とする場合に限り違憲となる。本法は、保有株式の価値の増加益に担税力を認め、これが資本組入れという形でいわば顕在化した時期を捉えて課税するものであり、担税力なき課税とはいえない。未実現利益に課税するか否かは立法政策の問題である(所59条、40条、法22条2項等)。

考察: 上記の原審の採用する理論構成(未実現のキャピタル・ゲインに対する課税)に対しては、それがなぜ譲渡所得ではなく配当所得として課税されるのかといった疑問や、資本組入れ直前に株式を購入した株主は、留保利益含みの高値で購入しており、キャピタル・ゲインがあるとはいえないのではないか(譲渡益について課税されている)、といった疑問が呈されている。

イ.納税者が取得した経済的価値のうち、原資の維持に必要な部分

  これは、上記の未実現利得等と異なり、そもそも所得に該当しないため課税対象にならない。このような理解は、資本主義的拡大再生産を維持する必要性からも根拠付けられる。制度上は、例えば必要経費控除や取得原価控除。

【判例】マンション建設承諾料事件―大阪地判s54..31

争点: 心身、資産の損失に基因して取得する損害賠償金等は所得税が課されない(所9条1項16号)。それでは、当事者間で、「損害賠償のため」との合意により支払われた金銭は、すべて非課税となるのであろうか。非課税となる損害賠償の範囲が争われた。

判旨: 現実に損害が生じ、または生じることが確実に見込まれ、かつその填補のために支払われるものに限られる。
 非課税の根拠は、損害を填補する性格のものは納税者に利益をもたらさないからである。よって当事者間で損害賠償のためと明確に合意された場合でも、非課税とされるのは客観的に発生し、または発生が見込まれる損害の限度に限られる。

メモ:損害賠償金は原則として一時所得として課税される(所34)。

3.所得税の類型

  所得税法は、所得をその源泉ないしは性質に応じて10種類に分類したうえで、原則として各種所得の金額を合算し、それに一本の税率表を適用する、総合所得税を基本としている。そのうえで、特定の種類の所得を合算せず、分離して課税する分離課税を併用している。後者は、特定種類の所得に対して累進税率の適用を緩和する趣旨である。

  なお、税制改革論議のなかで①利子・配当・キャピタルゲインといった金融所得、不動産所得、譲渡所得等と、②勤労性の所得等に区分し、前者には低税率の比例的な税率で課税し、後者には累進的な税率で課税する「二元的所得税制」論が浮上している(池本征男「所得税法」4訂版p16参照)。

4.課税単位

(1)課税単位とは、所得税の税額を算定する人的単位をいう。

  わが国は、戦前は家族単位主義を用いたが、戦後は個人単位主義へと移行した。ただし、家族構成員の間に所得を分割することを防止するため、事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例(所56条)を設け、また、妻の内助の功を評価するため配偶者特別控除の制度(所83条の2)等を採用している。

(2)夫婦別財産制と所得の帰属

  夫婦は、婚姻届出前に、婚姻中の夫婦財産関係に関する契約(夫婦財産契約)を締結できる(民755条)。そして民法は、当該契約が締結されない場合の補充的な制度として夫婦別産制を採用する。すなわち、夫婦の一方が婚姻前から所有する財産と、婚姻中に自己の名で得た財産は、その者の特有財産になる(民762条1項)。
 個人単位主義に基づく、夫婦の所得の計算は、上記民法上の夫婦別産主義に依拠しているものと解されているが(最判s36.9.6、百選25)、具体的な所得の帰属をどのように判断すべきかは必ずしも明確ではない。

【判例】夫婦財産契約と所得の帰属―東京地判s.63..16

争点: 夫が婚姻中に得る財産に得る財産を夫婦の共有とする内容の夫婦財産契約が締結された場合、夫が得た収入の半分は妻の所得となるのか。

判旨: ある収入の所得税法上の所得の帰属は、権利の発生時において、その権利が相手方との関係で誰に帰属するかによって決定されるべきであるから、夫が得た収入は夫の所得である。夫婦財産契約は、夫が一旦取得した財産を夫婦間において共有とするものに過ぎない。

考察: 上告審(最判h..12.3)も上記判断を支持している。

内容的には、今回は、訴訟実務で多用される論点は含まれていませんが、所得課税全般の理解の基礎となる部分です。ただ、最後の夫婦財産契約の問題は帰属の問題を含んでおり、所得の帰属が争われる訴訟は多くあります。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2008年10月 1日 (水)

はじめに

 このコーナーでは、租税法(所得税法、法人税法、相続税法等)の基本的な知識を解説します。
 税額の計算方法を学ぶのではなく、基本的な条文や原理、判例法理を含む、租税法の基本的な考え方を中心に扱います。
 とくに、考え方の分岐点に注意して、各説とその帰結を示すように心がけます。

 筆者(私)は、弁護士登録一年弱の若手租税法弁護士です。浅学ゆえに間違いもあることと思いますが、皆さんのご批判を頂き、少しずつページを充実させてゆきたいと思います。

 主要な参考文献は、金子宏「租税法」第13版(改版の都度最新版)です。

 

| | コメント (1) | トラックバック (0)